怖い病気「大動脈解離」

朝夕が冷え込む季節になった11月の終わりころ。会社のパソコンの画面で「契約書」を確認していたとき、カミナリに打たれたような「激痛」が背中を走り、意識がなくなりそうになったのです。「このままでは死ぬ!」と咄嗟に思いました。

「今は死ねない」という一心で、会社の階段を這うようにして建物の外に出ました。

通常の意識のレベルが100だとするならば、この時は、ひと桁台の数値しかなかったのだと思います。タクシーが前方に見えるけれども、意識が朦朧として、少しも急ぐことができない。やっとの思いで乗り込んだタクシーの運転手さんに「東京医療センターの緊急外来まで」と伝えたのかどうかも覚えていません。

タクシーの後部座席で横になったことは覚えています。日頃、運転している風景とは違い、シートに頭をつけた状態で見る外の景色は、ものすごい速さで飛んでいるようにも見えました。

背中の「激痛」の原因は「大動脈解離」でした。なんらかの原因で「大動脈」の内側にある内膜に裂け目ができ、その外側の中膜の中に血液が入り込んで縦方向に大動脈が裂けたのです。中膜に流れ込んだ血液は、新たな血液の流れ道(解離腔または偽腔)をつくり、それによって血管が膨らんだ状態を解離性大動脈瘤(大動脈解離)といい、外側には外膜一枚しかないため、大動脈瘤の破裂する危険性が高く、人工血管に置き換える手術“人工血管置換術”を受けたのです。

人工血管置換術は、主に上行大動脈や弓部大動脈の解離に対して行なわれ、手術では、まず胸を切り開き、心臓の動きを止め(高濃度のカリウムを含む心筋保護液を入れると、心臓が一時的に動きを止めます)、人工心肺に繋いで全身への血流を確保し、そのうえで、解離した血管を取り除き、人工血管を縫い付けます。手術開始から閉胸して縫合するまで約5時間。驚くことに、この手術は、一旦「心臓を止める」とのことです。

「大動脈解離」で、特に上行大動脈に解離が及ぶA型では、1時間に1%ずつ死亡率が上昇するとのことで、つまり、48時間以内におよそ半分の患者さんが亡くなることになり、処置できなければ、70~80%の人が2週間以内に死亡するという怖い病気なのです。大動脈は各臓器に栄養を送るために血管が分岐しているので、さまざまな臓器に血液がいかなくなり“虚血症状”を引き起こすと、狭心症、心筋梗塞、脳の虚血、脳梗塞、腸管の虚血、腎不全、上肢の虚血、下肢の虚血、脊髄の虚血などの障害がおこり、場合によっては死亡してしまうのです。

病院に着くあたりからの記憶はなく、「ICU」(集中治療室)で目が覚めたのは2日後でした。体のいたる所に管が刺さっていて、シールや指にはめるクリップなどで身動きができない状態で意識がもどりました。口に管が入っていて、酸素吸入のカバーが邪魔してうまく喋れません。

体からはたくさんの管や線がでている人造人間のようでした。ベッドの周りには多くの医療計器があり、モニターやアラームの音が鳴り響いていました。集中治療室といっても「個室」ではない。複数の医療機器の音が